「世界」解説

題名から、スケール感のあるなにか??を 想像される方もいらっしゃるかと思います。 しかし、この演目の「世界」とは「廓(遊郭)の世界」、 特に京の島原を指しています。 曲中では島原に集う男女が、様々に生き生きと描かれていま … “「世界」解説” の続きを読む

題名から、スケール感のあるなにか??を
想像される方もいらっしゃるかと思います。
しかし、この演目の「世界」とは「廓(遊郭)の世界」、
特に京の島原を指しています。

曲中では島原に集う男女が、様々に生き生きと描かれています。
松の位の太夫(上位の遊女)から、新造(若い遊女)、端女郎まで、
同じ遊女といっても位の高さも日々の事情も違う女性たち。
足繁く、場合によっては人目を忍んで通う客もいれば、
間夫(遊女の恋人である男性)もいます。
冷やかしなのか、ちょっと遊郭を覗いてみるだけの男たちも。

そんな艶やかな日常が、まるで絵巻のように繰り広げられる一方で
遊女にとっては苦界である廓の世界で気丈に生きようとする
女性たちの心意気も描かれています。
吉村流の中でも古くからあり、手数の多い洒脱な振付がついております。

上方唄  「世界」歌詞

逢い見ての  後(のち)とは 言わで今ここで 誰も廓のさと言葉 つい夕月とさし向かい 不粋と振るを引き止めて 漏らさぬ松の太夫職 新造のりじゃ 間夫と客 柳は糸にささがにの もつれもつれし口舌さえ 溶けて開けし さらば垣 … “上方唄  「世界」歌詞” の続きを読む

逢い見ての  後(のち)とは 言わで今ここで
誰も廓のさと言葉 つい夕月とさし向かい
不粋と振るを引き止めて 漏らさぬ松の太夫職
新造のりじゃ 間夫と客
柳は糸にささがにの もつれもつれし口舌さえ
溶けて開けし さらば垣
人目を包む編笠の 茶屋や揚屋の格子先
素見ぞめきか むくどりか
拗ねて見返る端女郎衆
出口にあらぬ うちこみし
みな竹川は瀬となりて ここに淵なす色世界
張りと意気地の伊達くらべ

地唄「古道成寺」歌詞

昔々この所にまなごの庄司という者あり かの者一人の娘をもつ 又その頃よりも熊野へ通る山伏あり 庄司がもとを宿と定め年月送る 庄司 娘寵愛のあまりにてや あれなる客僧こそ汝が夫(つま)よと たわむれしをば おさな心に誠と思 … “地唄「古道成寺」歌詞” の続きを読む

昔々この所にまなごの庄司という者あり
かの者一人の娘をもつ
又その頃よりも熊野へ通る山伏あり 庄司がもとを宿と定め年月送る
庄司 娘寵愛のあまりにてや あれなる客僧こそ汝が夫(つま)よと たわむれしをば
おさな心に誠と思い 明かし暮しておわします

そのうちに夜ふけ人静まりて 衣紋繕い鬢かきなでて 忍ぶ夜の障りは冴えた月影ふけゆく鳥が音 それに嫌なは犬の声 ぞっとした
人目忍ぶのうやつらや せきくる胸をおし静め
かの客僧のそばへ行き いつまでかくておき給う 早う迎えて給われと じっとしむればせんかたなくも 客僧はよれつもつれつ常陸帯 二重廻れば三重四重五重 七巻まいて はなちはせじとひき止むる
切るに切られぬわが思い せめて一夜は寝て語ろ 後ほど忍び申すべし
娘誠とよろこびて 一間の内にぞ待ちいたる

その後客僧仕すましたりとそれよりは
夜半に紛れて逃げて行く
幸い寺をたのみつつしばらく息をぞつぎいたる

ところへ娘かけ来たり
ええ腹たちや腹たちや 我を捨て置き給うかや
のうのういかに御僧よ
いづくまでも追っかけ行かん 死なば諸共 二世三世かけ 逃すまじと追っかくる

折ふし日高川の水かさまさりて 渡るべきようもあらざれば 川の上下あなたこなたと走り行きしが 毒蛇となって川へざんぶと飛び込んだり
逆巻く水に浮きつ沈みつ 紅の舌を巻き立て炎を吹きかけ吹きかけ なんなく大河を泳ぎこし
男を返せ戻せよと ここのめん廓かしこの客殿 くるりくるりくるりくるりとくるくるくる追い巡り追い巡り
なおなお怨霊居丈高に飛びあがり土をうがって尋ねける

住持も今はせんかたなくも 釣鐘を下ろして隠しおく

たずねかねつつ怨霊は 鐘の下りしを怪しみ 龍頭をくわえ 七巻巻いて尾をもって叩けば 鐘は則ち湯となって ついに山伏とりおわん
なんぼう恐ろしい物語

古道成寺

このたび、吉村流家元・吉村輝章師と務めさせていただきます「古道成寺」は 地唄舞の中でも人気のある演目です。熊野に暮らす庄司の娘・清姫は奥州から修行の旅にきた美しい山伏・安珍に恋をします。清姫は逃げる安珍を追いかけて、途中 … “古道成寺” の続きを読む

このたび、吉村流家元・吉村輝章師と務めさせていただきます「古道成寺」は 地唄舞の中でも人気のある演目です。熊野に暮らす庄司の娘・清姫は奥州から修行の旅にきた美しい山伏・安珍に恋をします。清姫は逃げる安珍を追いかけて、途中流れの速い日高川さえも泳ぎ渡って追いかけ続けるうちに蛇身となり、紀州の道成寺にたどりつきます。寺の鐘に隠れた安珍を蛇身の清姫は火を吹きながら鐘ごと焼き尽くしてしまうのでした。

*     *       *
地唄「古道成寺」は四世家元吉村雄輝師による振付です。
シテである清姫の動きには京劇や人形浄瑠璃の技法が随所に取り入れられており、一方でワキは、
清姫の父である庄司、安珍、さらに二枚扇子で日高川の流れなどの背景までを表現していきます。
地唄舞としては、大変ドラマティックでダイナミックな内容。地唄舞をご覧になるのが初めての方にも分かりやすく愉しんでいただけると思います。

古道成寺は一途に恋する女性の恐ろしさ満点の内容ですが、
曲調からはどこか長閑な懐かしさも感じていただけるかもしれません。
舞台の幕が上がると、“むかしむかしこの所にまなごの庄司というものあり…” の歌い出しでワキが登場し、物語が始まります。
怖いけれど、懐かしい日本の昔話です。